話題のデジタルデンチャーを詳しく解説
3Dプリンターやミリングマシンが作り出すデジタルデンチャー。高齢化社会が加速するにつれ、デンチャーの需要も増加する中、デジタルデンチャーはその救世主になりそうですね。歯科業界ではますますデジタル化が進み、デバイスや材料の精度が格段に上がっています。今までは材料費が高い・精度が悪い・強度が弱い印象のあったデジタルデンチャーですが、最近ではそのイメージも変わり、低コスト・高精度・手間いらず・短時間のデジタルデンチャーに注目が集まっています。
しかし、これからデジタルデンチャーの導入をご検討の歯科医の先生方や歯科技工士の方の中には「作製には何が必要なの?」「人工歯配列はどうするの?」「精度は?」「材料の認可は大丈夫?」「実際コストはどうなの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
今回は特に、歯科用3Dプリンターを用いたデジタルデンチャー(3Dプリントデンチャー)について、デジタル歯科に精通した歯科技工士が詳しく解説します。
デジタルデンチャー(3Dプリントデンチャー)とは?
デジタルデンチャー(3Dプリントデンチャー)は、歯科用3Dプリンターで造形したデンチャーベース(義歯床)に、人工歯を組み合わせて作製します。3Dプリンターで作製するデジタルデンチャーの大きな特徴は、同時に多数の作製が可能なこと、手間がかからないこと、そしてなにより低コストが挙げられます。
01. 作製には何が必要なの?
デジタルデンチャーを作製するためには、デジタルデータの採取・デザイン(設計)・造形のためのツールがそれぞれ必要となります。
➊ デンタルラボスキャナー / 口腔内スキャナー(IOS)
➋ デンチャー設計機能のあるCADソフト
➌ 歯科用3Dプリンター
➍ デンチャー用レジン
➎ 人工歯
02. 作製の流れ
従来法 作製時間:二日間
デジタルデンチャー 作製時間:3時間以内
実際のところ、チェアサイドで行う工程は、従来法とほとんどかわりありません。今までデンチャーを作るためには、丸二日かかり、配列や歯肉形成、研磨等の手作業の時間は3時間以上取られていました。またその作業には熟練の技術が必要で、限られた歯科技工士しか作製することができませんでした。しかし、デジタルデンチャーの場合、その熟練した技術をデジタル技術で補うことができます。もちろん設計の技術や経験は必要となりますが、CADソフトと3Dプリンターで理想的なデンチャーをより簡単に作製可能です。しかもプリント時間は30~40分(※ラピッドシェイプの場合)、CADで設計する時間と仕上げの工程を合わせても作業時間は約1~2時間、合計で3時間ほどでデンチャーを完成させることができます。つまり、患者様に即日デンチャーをお渡しすることも可能となります。
これまでの技工作業のような、埋没、重合、掘出しなどの様々な工程が省略または大幅に簡略化されるため、手間やコストが格段に削減されます。まさに技工士不足の救世主と言えますね。
↓こちらの動画では、デジタルデンチャーの作製方法をわかりやすく紹介しています。
03. 人工歯配列はどうするの?
人工歯配列は、デンチャー設計機能のあるCADソフトで行います。現在、代表的なCADソフトとしては下記の5種類挙げられます。
➊ exocad
➋ 3shape
➌ DENTCA DESIGN
➍ Dentsupply Sirona
➎ Dental wings
CADソフトによって、ライブラリに入っている人工歯の種類や操作方法が異なります。また、CADソフト上で人工歯自体をデザインする場合はソフト上で咬合調整することができるため、完成後の咬合調整は必要ありません。
04. 精度は?
近年歯科用3Dプリンターの精度が向上され、適合精度が格段に向上しました。この結果により、臨床に十分耐えうるものになっています。
▲ 作製後2か月以上経過したときの写真。ばっちり適合していますね!
05. コストは?
「デジタルデンチャーって、コストが高そう!」
そんなイメージがあるかと思いますが、それは少し昔のお話。レジンメーカーにもよりますが、実はコストが安いんです!DETAX社を例として挙げた場合、フルデンチャーの義歯床の材料代は1床あたり、なんと1,500円!!!ここに既製人工歯か、CADでデザインした3Dプリント歯牙の材料代を上乗せしても約3,000円で作製可能です。従来のデンチャーと比較して作製の手間は半分以下になります。
06. 材料の認可は?
これまで日本ではデンチャー用3Dプリント材料の薬事認可が下りたレジンがなく、海外よりも導入が遅れていましたが、2021年には日本でもついに認可が通り、流通が開始されました。まだ薬事認可がおりている材料は少ないものの、安全性・性能を備えたマテリアルが増えてきています。詳しくは後述でご紹介します。
07. 強度は?
3Dプリンターを用いる作製方法では、一度に複数の義歯床を造形することができるので製作効率が良いことが挙げられますが、反対に、紫外線による硬化樹脂を用いるため、義歯床の重合収縮や機械的物性、耐摩耗性の点で精度や長期的安定性に劣る可能性が心配されていました。しかし、近年の研究報告によると、その精度や機械的物性には大きな問題がないことが示されました。実際に、クラスⅡ認証済みのDETAX社Freeprint® dentureレジンでは、曲げ強度110Mpa以上、曲げ弾性率2500Mpa以上となっています。これはJIS-T6501義歯床用レジンの規格を十分満たす物性値となっています。
認可された義歯床用3Dプリント材料
現在、薬事承認を取得している3Dプリント用デンチャーレジン(義歯床用)は主に以下の4種類です。
➊ クルッツァー
➋ デンケンハイデンタル
➌ DETAX
➍ DIO
今後、もっと多くの材料が認可されると予想されます。
3Dプリンター義歯床+既製人工歯の合わせ技
既製人工歯と3Dプリント義歯床を接着して使用できることが認められ、薬事認可のとれた数少ないレジンの代表としてDETAX社のFreeprint® dentureレジンがあります。デンチャー専用に開発されているため、精度も接着強度も抜群です。
ほかにもこんな活用方法があります
➊ コピーデンチャー
現在使用中の義歯を丸ごとスキャンすればOK! 手間のかかっていたコピーデンチャーが精度よくあっという間に作製できます。
➋ 睡眠用
デンチャーは使えば使うほど劣化していきます。また、きちんと洗浄・消毒したいですよね。寝ている間や洗浄中に、コピーデンチャーが役に立ちます。
➌ 万が一の時の「お守り入れ歯」
落として割れてしまった!!!愛犬が食べちゃった!!?予期せぬ事故に備えて、今と全く同じデンチャーがあれば安心です。
まとめ
ほんの少し前まで3Dプリンターのメインの活用方法は模型に限られていましたが、様々なメーカーの努力でデジタルデンチャー専用マテリアルやデジタルデンチャー専用人工歯など、材料も豊富になり、精度も抜群に上がってきています。
今後、ますます3Dプリントデンチャーが盛り上がることは間違いないでしょう。ぜひ一度、デジタルデンチャーを活用してみてください。コアフロントでは、デジタルデンチャーのセミナーを開催しており大変ご好評いただいております。そのほか詳しい作製方法やデジタルツールのご質問などございましたらお気軽にお問い合わせください。
【お知らせ】
第41回 日本顎咬合学会学術大会・総会におきまして、コンフォート入れ歯クリニックの池田先生によるテーブルクリニックが開催されます。ぜひお集まりください。
日時:6月18日(日)15時〜 テーブルNo.8
演題:明日から始める義歯治療のデジタル化~CTとビニール袋で出来るレジン床義歯の1分スキャン~
監修:コアフロント技工部長 歯科技工士Y
▪ 日本歯科技工士会 会員
▪ Imetric社アプリケーションスペシャリスト